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『パーマネント野ばら』 [映画]

久しぶりに映画を観た。

“「ずっと好き」はどこにもないから、私は毎日、小さな嘘をつく”

この映画のキャッチは「嘘」。
そういえば、前回観た映画のキャッチも「嘘」。(こちら
「嘘」がやっぱり気になった。


       606ポスター.jpg

「パーマネント野ばら」 (原作:西原理恵子、脚本:奥寺佐渡子、監督:吉田大八)

海に囲まれた田舎町の古びた美容室「野ばら」。
ここは、幼い娘を連れて出戻ったなおこ(菅野美穂)の実家で、母まさ子(夏木マリ)が店を切り盛りしている。
男性遍歴を繰り返したまさ子の店らしく、やってくる町の女たちの会話はかなりドギツイ。

店には、なおこの幼なじみもやって来る。
一人は、フィリピンパブを経営して男出入りの多い、みっちゃん(小池栄子)。
もう一人は、ダメ男に惹かれてしまう男運の悪い、ともちゃん(池脇千鶴)。
彼女らのどこか暴力的で刹那的な恋の顛末が、画面いっぱいに生々しく描かれる。

登場する女たちが過熱気味であるのに対して、なおこはもっぱら見守り受けとめる役目。


       606パンフレット.jpg

高校教師カシマ(江口洋介)との恋愛は、誰にも秘密。
教室や海岸で、穏やかで静かな時間を共に過ごしている。
そんなある時、二人だけで旅行に出かけるチャンスがやって来る。
先に旅館に着いて、カシマの到着を待つなおこ。
やがて、カシマが車で到着。
バカ笑いしながらじゃれ合う二人。
ところが、なおこがうたた寝している短い間に、カシマの姿が車ごと消えてしまう。

このことを境に、なおこはともちゃんにカシマとの恋を打ち明ける。
その話なんべんも聞いているよ、と答えるともちゃん。
なおこには、その記憶がまるでない。

それからの展開は観客の意表を突く。

“劇映画には、あるストーリーの流れの中で、たったひとつのセリフや情景によって、世界が一変するという瞬間がある。 この「パーマネント野ばら」にも、そうした魔術的な一瞬が訪れる。”
( 沢木耕太郎「銀の街から」 2010.5.11朝日新聞朝刊より抜粋 )


≪魔術的な一瞬≫の後で、
観客は我に返るように、この物語を覆っていた「嘘」に気付かされる。
そして、登場する女たちに受けとめられ見守られていたのは他ならぬ、なおこではなかったか、と。

劇中をスッピンで通す、菅野美穂の巧まない演技力に圧倒される1時間40分。

エンドロールが流れても、すぐには席を立たなかった。

余韻に浸っていたいからだけではなく、もう一つ別の理由もあって。
同行した友人の親戚がこの映画に関わっていて、その名前を見逃すまいと。。。

続きます


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『ディア・ドクター』(Dear Doctor) [映画]

「その嘘は、罪ですか。」

チラシに踊るのは、このキャッチ。
それが何とも気になった。


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       706パンフレット.jpg
            

『ディア・ドクター』 (原作・脚本・監督:西川美和)

山あいの小さな村でたった一人の医師・伊野(笑福亭鶴瓶)が失踪した。
診療所に赴任して3年半、破格の待遇を受け、村民からも慕われていた彼にいったい何が?
ベテラン刑事が彼の行方を探すうちに、一つの嘘に突き当たる。
同じ診療所で働く地元の看護師(余貴美子)や、薬の営業マン(香川照之)は、どうやらその嘘に気付いていたふしがある。
東京の医大を卒業し、2ヶ月前に研修医として赴任したばかりの相馬(瑛太)には、皆目見当がつかないが。
ただ、それが失踪の理由だろうか?

もう一つの嘘。
それは、村の未亡人・鳥飼かつ子(八千草薫)と伊野が取り交わした嘘。
かつ子の病状が進んでいることを互いに認めながら、家族にはそれを告げないこと。
その嘘には、かつ子なりの理由があった。
果たして、娘りつ子(井川遥)が、お盆の帰省中に、母の体調に疑問を持ち、伊野を訪ねてくる。
りつ子は、東京の大学病院に勤める医師だった。
やがて、りつ子は伊野の懸命な説明に納得し、非礼を詫びる。

「すぐに戻りますから、待っていて下さい」
伊野は、りつ子にそう言って診療所を飛び出した。
そして、そのまま二度と戻らなかった。


       706西川監督サイン.jpg

前作の『ゆれる』で注目されてから3年。
濃密な人間関係を描くことで定評がある、西川美和さんのこれが3作目の監督作品。
3作とも脚本も手がけるというこだわりをみせている。
なお、今回の原作を収録した『きのうの神さま』は、【直木賞】にノミネートされるというグッドタイミング。(7月15日発表)
彼女が弱冠35歳だということも付け加えたい。


ゆれる [DVD]

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きのうの神さま

きのうの神さま

  • 作者: 西川 美和
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2009/04
  • メディア: 単行本

話を最初に戻して。

伊野のついた2つの嘘は、遠からず明らかになってゆくだろう。
そのことをじっと待つのは、伊野には居たたまれなかったのではないか。
嘘を続けるのは、もう限界だったのではないか。
だから、失踪することで、少しでも早く嘘から解放されたかったのではないか。
もちろん、本当に解放されるわけでは決してないけれど。

意表をつくラストシーン。
思わず微笑んで、幕。


       706診療所.jpg
                   ロビーに置かれた 映画と同じセット



≪陸も?≫

えっ、陸も「次週お返し下さい」って?
それは、嘘です。笑


       706次週お返し下さい?.jpg
 

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『悲しみよ こんにちは』 [映画]

6月18日木曜日。

『悲しみよこんにちは』が2週間だけ(6月26日まで)の限定上映と知って、映画館へ走る。
もともとは、フランソワーズ・サガンの処女作として知られる小説。
主演を演じた、当時19歳のジーン・セバーグを観たい。
ただそれだけの理由からだった。


       618ポスター.jpg

続きます


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『アフタースクール』 [映画]

2週間ごとに取り替えるコンタクトレンズの在庫が無くなって、いつもの眼鏡店へ。
ここで視力や眼圧を検査した後に眼科医の診察を受けて、ようやくコンタクトレンズが手に入る。
ところが、今回は様子が違った。
「視力は、これまでと変わりありませんか?」と、質問されるのみ。

4月の法改正で、これまで義務だった検査や診察が、そうではなくなったと説明される。
これは、コンタクトレンズ購入にからむ医療費の不正請求が横行したから?
買う側にとって、簡素化されることはいいかどうか。
そう思いながら、今から急げば13時30分の上映時間に間に合う、と計算したりして。。。

駆け足で向ったのは、こちら。↓


       605シネカノン.JPG

       605もしかして満席?.JPG


うん? ポスターの左隅に気になる赤い文字が。
もう一度目を凝らして見ると。


       605やっぱり満席.JPG


諦めきれず、受付で確認したが、これは正しい標識?だった。
次の上映は15時50分だから、今から3時間近く待つことになる。
少し考えて、やっぱりチケットを買うことに。
水割(水曜日割引)で、1000円はなんといっても魅力的だった。

映画は、『アフタースクール』 (監督:内田けんじ)

中学校教師・神野(大泉洋)の親友で、エリートサラリーマンの木村(堺雅人)が、臨月の妻・美紀(常盤貴子)を残し、昨夜から行方不明。
探偵(佐々木蔵之介)は、ある男から依頼を受けて木村を探していた。
今朝撮ったという写真を、探偵は神野に見せる。
そこには、女(田畑智子)と親しげに話す木村が写っていた。
動揺する神野を探偵が半ば強引に誘い、二人が一緒に木村を探すことになる。
探偵によれば、自分たちは互いに同じ中学の同級生だという。
探偵は、神野がなんとなくしか覚えていない名前を名乗った。

どこか世間知らずな純粋培養・神野と、裏社会に精通して世の中をナナメに渡る・探偵とのコンビ。
「お前みたいに、ずーっと教室で生きているような奴に、人間の何がわかるんだよ」
探偵がわけ知り顔でそう言うと

「あんたみたいな生徒、どのクラスにもいるんだよ。全部わかったような顔して勝手にひねくれて、この学校つまんねだのなんだの・・・あのなぁ、学校なんてどうでもいいんだよ。お前がつまんないのは、お前のせいだ」 
別の場面では、教師の神野がそう切り返す。


       605パンフとチケット.JPG
                                   パンフレット(ノートの装丁) と 当日のチケット


”甘くみてると、ダマされちゃいますよ”

この映画のキャッチフレーズが見終わったあとで、深~い意味を持つ。
ダマされるのは、いったい誰なのか?

途中から、今までのペースを全部ひっくり返す展開が待っている。
胸がすくような楽しさとともに。

冒頭の回想シーン。
中学生の木村が、美紀から手紙を渡される場面さえも、ちゃんとオチが用意されているなんて。
うっかり見落としている伏線がいっぱいありそう。
そう思えば、タイトルさえもイミシンだった。


シネカノン有楽町2丁目




※※※※※

3時間近く待っている間、一番時間を費やしたもの


605行列.JPG 605ドーナツ製造中.JPG
     この日は35分待ち                                     製造中

605おじさんたちも.JPG 605売り場から.JPG
      顧客側から                     店員側から

605食前.JPG 605食後.JPG
   待っている間に配られる                出来たてホヤホヤ


ビルを探検している間に偶然みつけた、【クリスピードーナッツ】
新宿では行列に恐れをなしていたため、食べるのは今回が初めて。
甘すぎると聞かされていたけど、甘さには強いので全然問題なかった。


      605買ったのはこちら.JPG
                今回買った6種類


種類によって好みは分かれるが、やはり、○スドよりは断然美味しい。
特に上段の星型のドーナッツ、トゥインクル・スター(限定品)がお気に入り。
ドーナッツ好きなので、やみつきになるかも。


       605ドーナッツのお店.JPG



≪今週の陸≫

シャンプーを終えての車中で。
風を顔に受けて、心地よさそうだった。
陸も今月からはシートベルトをしないと。。。


       605陸、満足.JPG

       605陸、大満足.JPG

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『山のあなた 徳市の恋』 [映画]

映画試写会の招待状が届いたのは、先週末のこと。
応募したのは1ヶ月近く前だったから、すっかり忘れていた。
定員(50名)のおよそ10倍の応募があったと、主催者から当日知らされた。


       411試写会招待状.JPG

       411東宝.JPG

       411試写室.JPG

 
題名は山のあなた 徳市の恋】 (監督:石井克人)。

時代は昭和の初め、季節は新緑の頃。
目の不自由な按摩の徳市(草彅剛=くさなぎつよし)と福市(加瀬亮)が、山道を歩いている場面から物語は始まる。
彼らは道中を早足で歩きながら、追い抜いた人数を数える。
なかでも徳市は、すれ違う子供たちの数や性別を当ててしまうほどカンが鋭い。
二人が目指しているのは山あいの温泉場。
冬になれば、また山を下って海の温泉場へ戻るのが、彼らのいつもの暮らし。 

彼らを一台の馬車が追い抜いていく。
馬車に乗っていたのは東京から来た女(マイコ)、子連れの男(堤真一)、男が連れている男の子(広田亮平)たち。 
徳市は着いてすぐに、温泉宿「鯨屋」に呼ばれ、女に按摩を頼まれる。
女は素性を知らせず、何かわけがありそう。
徳市は、そんな女に関心を抱く。
男は、温泉宿「観音屋」に宿泊し、福市が按摩をする。
男は独身で、連れている男の子は亡くなった兄夫婦の子供だった。
散歩中に女と男の子が知り合い、その縁で女は男とも交流が始まる。


       411特製手ぬぐい.JPG
               
 
そこへ事件が起こる。
「鯨屋」で、泊り客が入浴中に財布を盗まれる。
その時、部屋にいたのは女だけだと、宿の主人(三浦友和)から徳市は聞かされる。
翌朝、福市から「観音屋」でも同じ手口で盗難があったと聞く。
それはちょうど、女が男の子を送って「観音屋」へ行っていた時間と符合する。
「鯨屋」も「観音屋」も宿泊客への影響を恐れて、表沙汰にはしない。

やがて、男は女に惹かれて、滞在を一日伸ばしにする。
女も何かに怯えるようだが、発つ様子はない。
その間も盗難が相次ぎ、旅館は宿泊客が犯人だと目星を付けて、ようやく警察に訴える。
徳市は気が気ではない。
そして、思い切ってある行動に出る。

その後の展開については、映画に譲るとして。。
内面に激しいものを抱えながら、静かに時間が流れていくさまが見事に描かれていた。


       411ポスター.JPG

          

石井監督によれば、この作品は、70年前に発表された「按摩と女」(監督:清水宏)の完全なカヴァーバージョンだという。
この上映に併せて、かつての作品もDVDで復刻するというニュースもあった。
そして、それと今回の作品との詳細な比較を『広告批評』が次月号で取り上げる予定だとも。
そういえば、『広告批評』は来年4月で休刊するとの発表があったばかり。
復刻するものがあれば、一方で休刊するものがあるのは、皮肉な取り合わせに思えた。


清水宏監督作品 第一集 ~山あいの風景~

清水宏監督作品 第一集 ~山あいの風景~

  • 出版社/メーカー: 松竹
  • メディア: DVD


実は、今回の特別試写会には、ちょっとしたサプライズがあった。
それは、主役を演じた草彅(くさなぎ)クンを囲んでのトークが20分ばかり予定されていたこと。
応募する際には、そうした内容は一切書かれておらず、招待状を見て初めて知ったことだった。


       411スケジュール.JPG       


5時20分から始まる予定が、前のスケジュール(大江戸温泉での記者発表)で時間が押しているとのことで。
30分近く遅れて 草彅(くさなぎ)クン登場!

映画の感想やら、個人的な質問が目の前の彼に飛ぶ、飛ぶ。
いま聞いている歌は、宇多田ヒカルで、目標とする俳優は、堤真一。
おかげさまで、お正月に5日間休暇があっただけ。。とか。
狭い試写会場だから、おおげさでなく手を伸ばせば届きそうな近さだった。

歌は音程というハードルがあるけれど、それに比べると芝居は宇宙だと思える。
それも、もっともっと上があって、これで満足ということのない、宇宙。
だから、演ずることが好き。

その言葉が印象に残った。
北海道からみえた人から「じゃがポックル」を受け取ったり、手を差し出した人と気軽に握手しながら、次の会場へ颯爽と消えて行った。
気取らず、エラぶらず、等身大のままがとてもカッコよかった。

「彼はなかなか好青年ですね」
隣に座った年配の女性が私にともなく、ふとそう言った。
それはきっと最大の褒め言葉に違いなかった。       


東宝本社






≪最近の陸≫

起きているときと寝ているとき


       411良いお天気.JPG

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『歓喜の歌』を巡る偶然 [映画]

偶然は重なるものらしい。
最初の偶然は、その日ラジオを聴いていて映画のペア鑑賞券が当たるプレゼントに応募したこと。
メールで応募できて、番組の終わりには当選者が発表されるという、手軽さが気に入って。
但し、当るのは5組(10名)だけ。

“○○区にお住まいの陸さん”
当選した!

 

       
                  当選のお知らせ

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『紙屋悦子の青春』 [映画]

黒木和雄監督の遺作となった『紙屋悦子の青春』 公開初日。
ちょうど帰省ラッシュが始まった日、そして東京が激しい雷雨に見舞われ、JR山手線が数時間にわたり不通になった日だった。
会場の岩波ホールでは、高野悦子さん(総支配人)を始め、主だった出演者が舞台挨拶に顔を揃えていた。

 

       

 

一昨年11月、私は同じこの場所で、監督の前作『父と暮らせば』を観た。
その際、黒木監督が登場し、スピーチするハプニングがあった。(その記事についてはこちら
今回の舞台挨拶で、それぞれに監督を語る中で、意外にも原田知世さん(主演の紙屋悦子役)が、この出来事について触れた。
彼女もそこに居合わせていたと知った。

 

       

 

昭和20年桜の頃、鹿児島県の田舎町が舞台。
紙屋悦子は兄(小林薫)と兄嫁(本上まなみ)の三人で仲良く暮らしている。
それというのも、兄嫁は悦子の同級生で親友という間柄だった。
悦子が兄を諌めたり、逆に兄嫁を叱責したりするさまが微笑ましく描かれる。
戦時下ではあるけれど、穏やかな日々の暮らしぶりが三人の会話から透けて見える。

ある日、兄が悦子に縁談を持ってきて、物語が展開し始める。
兄の旧制高校時代の後輩で、たびたびこの家に出入りしていた、明石少尉(松岡俊介)が、同僚で親友の永与少尉(永瀬正敏)を縁談の相手として紹介したい、という話である。
明石ではなく、なんで永与なのか、と兄嫁は口をはさむ。
悦子と明石が互いに好意を寄せていることを、うすうす気づいていたからだ。

明石にすれば、同じ海軍の航空隊でも、操縦士である自分より整備士官の永与の方が、生き残る確率が高いことを見越して、永与に悦子を託そうとする。
明石にはそういうやり方でしか、悦子への愛情を表現する術がないように見える。
悦子もまたそれを知って、受け入れようとしているようだった。

庭の桜が満開の夜、突然、明石が紙屋家を訪れる。
明日の出撃を告げるための訪問だと、すぐに気づかされる。
兄嫁が機転をきかせて、悦子と二人きりにさせる。
二人は短い別れの言葉を交わしただけだった。
玄関まで見送りに出た悦子たちに敬礼して、明石は去った。
追いかけろ、と促す兄たちに構わず、部屋に戻った悦子の号泣が、画面を揺らす。
やがて、悦子は永与と結婚の約束をする。

実は、この映画は、年老いた悦子と永与が病院の屋上で会話するシーンから始まる。
二人が夫婦であることは、会話からたやすく読み取れる。
二人はあれから夫婦になって、今日まで生きてきたのだった。
明石の遺志が貫かれたことを伝えて、物語は静かに終わった。

 

       

 

「僕はカッコいい言い方をしてしまうと、人生の哀歌を撮りたいんです」

黒木監督はこの映画について、永瀬正敏さん(永与少尉役)にそう伝えたと言う。
同じ日に放映された、NHK教育テレビ【ETV特集 戦争へのまなざし】
その中のエピソードである。

 

       

 

他にも、美術監督の木村威夫氏が、紙屋家のセットについて語る場面が興味深い。
それは、紙屋家に通じる土手の向こうに見える、電柱のことだ。
電柱には「十字架」の意味を込めたという。
そして、土手の向こうは「あの世」である、と。
よく見れば、それは確かに十字架の形をはっきりとあらわしていた。
紙屋家を訪ねた後に、その土手を上り、電柱の向うに下りていくのは、やがて戦死する明石だった。
木村自身もまた、軍隊に召集されて、わずかに生き残った世代だった。

※NHK『ETV特集 戦争へのまなざし』(2006年8月12日放送)より
       

       

 

この映画では、声高に戦争反対をとなえたりはしない。
戦時下での市民の日常を丁寧に描くことで、観る者にその時代を追体験させずにはおかない。
まるで、自分がそこで生活しているような感覚だ。
タイトルバックにだけ音楽が流れるというシンプルさで、感傷的に流れる傾向を避けようとしているのが分かる。
この時代を生きるしかなかった世代への愛おしさと悲しみが、胸にせまった。

「おそらく僕は映画が作れなくなったら死んでしまうだろう。だから、走り続けるしかない。 僕は映画作りの途中で死にたくない」 (『東京新聞』2003年10月11日夕刊より)

かつてこのように述べた黒木監督。
『紙屋悦子の青春』を撮り終えての死だったことと見事に符号して、哀しい。

 




《旧盆期間中の陸たち》
世間は夏休み真っ只中。
陸たちも同じ気分?

       

       

       

       

       

       


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もうひとつの「かもめ食堂」 [映画]

上映期間の終わり近くになって、慌てて観た『かもめ食堂』(荻上直子監督)だった。
早めに映画館に着いて、パンフレットなどを見ながら、次の上映時間までを待っていた。
私が知っている「かもめ食堂」について、あれこれと懐かしく思い出しながら。。。

       

私の「かもめ食堂」は、ヘルシンキ(フィンランド)ではなく、日本の小さな港町にあった。
小林聡美・もたいまさこ・片桐はいりがそこに居るはずもなく、こざっぱりしたおばさんが、ほとんど一人で細々と続けていた。
おにぎりやコーヒーではなく、魚中心の小料理と夜はお酒がメニューの中心だったろうか?幼かったこともあって、この辺の記憶があいまいだ。
覚えているのは、おばさんが作る玉子焼が絶品だったこと。
お店の名前は「かもめ食堂」ではなく、シンプルに「かもめ」。
私は「かもめのおばさん」と呼んでいた。

       

どういういきさつからか、「かもめのおばさん」と我が家は、家族ぐるみの付き合いをしていた。
といっても、おばさんが我が家を訪ねることはなく、亡くなった父が「かもめ」で、懇意にしているW社長と飲むのが常だった。
家族ぐるみといっても、おばさんには身寄りがなかった。
「かもめ」の二階がおばさんの部屋で、そこに私も自由に出入りしていた。
部屋の片隅に古い写真が数枚飾られていたが、私の知らない顔ばかりだった。
その中に、少女の写真もあった。
それが誰なのか、とうとう聞かずじまいだった。

おばさんが、W社長のいわゆる「愛人」と知らされたのは、ずっと後になってから。
W社長が交通事故で亡くなった後のことだった。
分骨して欲しいとの願いが叶わなかった、と父から聞かされて、初めて気がついた。
皆が知っていたのに、私だけが知らなかった。
父が以前ほどには「かもめ」に通わなくなって、すこしずつ疎遠になった。

私の結婚式には、華やかに盛装したおばさんが居た。
父が呼んでくれたと嬉しそうだった。
何十年ぶりかの再会だった。
式の翌日、主人と「かもめ」を訪ねた。
おばさんから、話があるのでどうしても来て欲しい、と耳打ちされたからだった。
お店で出すという、ラーメンをご馳走になったあとで、おもむろに指輪を渡された。
アクアマリンのように見えるが、本当のところ何の石か分からない。
はめてみると、私にはちょうど良い大きさだった。
それは私に渡そうと思って、長年預かっていた指輪だということだった。
おばさんから聞いた、この指輪についてのいきさつは、いづれ記事にしたいと思っているが、今回はここまでに留めたい。

指輪を受け取ってから1年も経たないうちに、おばさんは病気で亡くなった。
身寄りがないことを覚悟したかのような、あっけない死だった。

       

 

映画『かもめ食堂』については、【チヨロギさん】【saraさん】の記事がその雰囲気や内容を確かに伝えているので、そちらに譲りたい。

私には、映画の後半、主人公(小林聡美)が、さり気なく語る言葉が印象的だった。

「人はみんな変わっていくものですから」

旅行者(片桐はいり)が「かもめ食堂」を辞めたいと言い出しても、引き止めようとはしない。
何故引き止めないのか、と別の旅行者(もたいまさこ)に問われて語る言葉だ。
追いかけたり、引き止めたりしない生き方を選んで、ヘルシンキまで来たというのだろうか?
≪来る者は拒まず、去る者は追わず≫
そんな古い言葉を思い出した。

意外だったのは、エンディングに『クレイジーラブ』(井上陽水)が流れたこと。
俄かに心が浮き立つような気分を味わった。
これは案外、主人公のこれまでとは違う心の動きを暗示しているのかも知れない。

クレイジーラブ

クレイジーラブ

  • アーティスト: 井上陽水, 鈴木茂, 井上鑑
  • 出版社/メーカー: フォーライフミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 1999/05/21
  • メディア: CD

もうひとつ、この映画から知ったのは、ヘルシンキという都市が、東京からたった10時間のフライトで到着するほどの近さにあるということ。
日本から一番近いヨーロッパだと知った。


《昨日の陸》

       
              遠くを見つめる?

       
              久しぶりに会った、【親子4シーズー】


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『明日の記憶』試写会で [映画]

とうとう、渡辺謙さんに会ってしまった。
この書き出しは、過去記事【ジョディ・フォスターさま】と同じですが。
糸井重里氏主宰【ほぼ日刊イトイ新聞】内の、『明日の記憶』スペシャル試写会(5月4日)での出来ごと。

       
             550組招待に当選

       
             試写会&トークイベント会場 (よみうりホール)
         
【明日の記憶】という映画のなにかしらの手伝いをしたい、と僕は言いました。この奇跡のような映画の、仲間になって自分たちなりの汗をかきたいと思ったのです」(「ほぼ日刊イトイ新聞」より)
そんな糸井重里さんと、『明日の記憶』の主演&プロデューサー、渡辺謙さんとのトークが上演後に予定されていた。
スーツ姿の謙さんとジーパン姿の糸井さんが、ひとつのベンチ(長椅子)に横並びに座る。
前後、上下、対峙ではなく、「隣り合う」ためのベンチ。
この日用意された、ベンチさえも大きなメッセージを持っていた。
これまで何通かのメール交換をしながら、この日二人は初対面だった。

       
             
≪いちばん話したいことを、この場では話そうと思って≫
この糸井さんの言葉でスタートした、トークイベントの詳細はいづれ「ほぼ日刊イトイ新聞」で明かされることだろう。
私には二人が、とても真摯に「隣り合い」、この映画だけでなく互いを、本気で理解したがっているように思えてならなかった。
快い時間だった。

そんな中から、謙さんが話した言葉をひとつだけ。
「この人があなたのお母さんですよ、突然そう紹介された気がしたんです」

原作を読んで、映画化したいとの強い衝動に突き動かされたことを、母親に例えた。
なぜなら、母親を自分で選ぶことは出来ない、自分の力の及ばないことであると。
つまり、この映画は彼にとって、運命的なことだったのだ、糸井さんがそう言い換えたように。

明日の記憶

明日の記憶

  • 作者: 荻原 浩
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2004/10/20
  • メディア: 単行本

storyは、50歳で若年性アルツハイマー病を宣告された主人公(渡辺謙)とその妻(樋口可南子)を軸に展開する。
原作は、主人公の一人称だったから、次第に記憶を失っていくさまがリアル(字をわざと間違えて表記するなど)で、まるで自分のことのように恐ろしく思えた。
映画の感想は、少し違う。
恐ろしいより哀しい、そして何だろう、訳もなく余韻が残る。

最後のシーンが象徴的だ。(ネタバレです)
若い頃に通った陶芸の窯場を主人公が訪ね、夜を明かす。
翌日、家へ帰る道すがら、彼を探しに来た妻と出会う。
彼は、妻に会釈して通り過ぎようとする。
ほっとした妻の顔が、愕然とした表情に変わり、やがて涙をにじませる。
妻の顔さえ分からなくなっていることを知らされる場面だ。
妻を演ずる樋口可南子さんが、ひと言も発することなく、表情の変化だけで心情を表すさまが、涙を誘う。

       

チラシには、
「……あなたと、います」夫婦の愛と絆。心に響く物語。
とあった。
余談だが、主人は「妻は夫をいたわりつ、夫は妻を慕いつつ。。。」と続く「壺坂霊験記」を連想したそうな。
間違いではないと思うけど。

この日のトークイベントに参加した全員に、糸井さんは「この映画の宣伝担当を任命します」と言われた。
会場では、全国共通の前売り券も扱っていた。
宣伝担当ならずとも、もう一度観たい、いや、何回か観たい映画であることは確かだった。
前売り券を買いに走っていた。

 

[追 記]

この映画への謙さんなりのこだわり。
①物語の進行に沿って、撮影したこと (順撮りという。そのために普通より撮影に時間がかかったし、監督との話し合いでいろいろと手直しが出来た)
②堤幸彦監督を始め、出演者の多くを、謙さんが直接依頼したこと 
③役作りのために、8㎏減量したこと (実際はこの病気に罹ると太る場合もあるそうだが、謙さんと監督の判断で痩せる方を選んだ)

※私が小説と映画の違いについて気づいたことのひとつ。
娘の結婚相手が、原作では「渡辺」だったが、映画ではたしか「伊東」だった。
「渡辺」ではサスガにまずい、と思ったのだろう。

 




《GW期間中の陸》

いろんな出会い?があった。

       
              クロ猫と遭遇

       
              シロ猫と遭遇

       
              虫と遭遇

       
             久しぶりに 【てっぺい君】


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ジョディ・フォスターさま [映画]

とうとう、ジョディ・フォスターに会ってしまった。
ショートカットヘアに濃紺のスーツ姿。
聡明なキャリア・ウーマンを思わせる出で立ちに相応しい、簡潔な受け答え。
ほんの短い時間とはいえ、間違いなく同じ空気を吸っていた。
これは初夢ではなく、現実のこと。

会場は、【VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ】
初めての六本木ヒルズ。
ジョディ・フォスター主演の映画『フライトプラン』ジャパン・プレミア試写会の招待状が届いた。
「当選者は発送をもって、発表に代えさせて頂きます」の10組20名様に、運よく選ばれた。
ジョディ・フォスターに惹かれての応募だったが、当たるとは思ってもいなかったし、応募すること自体、何年ぶりのことだったろう。
先日引いたおみくじでは【末吉】だったから、これで今年の運は使い果たしたに違いない。

       
            当選のおしらせ 引換券裏

       
            引換券おもて 

ジョディ・フォスターといえば、『告発の行方』『羊たちの沈黙』で過去2回アカデミー主演女優賞に輝いたことはよく知られている。
名門イェール大学出身、二児の母親、未婚、43歳。

そんな彼女の3年ぶりとなる最新作、【フライトプラン(FLIGHTPLAN)】
彼女は6歳の娘を連れて、ジャンボジェットでニューヨークに向かう。
突然の事故で亡くなった夫の棺とともに。
その機内で娘が忽然と姿を消してしまう。
彼女は必死に捜索するが、乗務員や乗客の誰一人、娘を見たという人がいない。
それどころか、娘の荷物や航空券、乗客名簿も消され、夫と共に6日前に亡くなっている、との報告を受ける。
彼女は航空設計士、最新鋭の旅客機とはいえ、機内の構造は熟知している。

「ジョディ・フォスターが新たに挑む、衝撃のアクション・サスペンス!」
チラシには、そんな言葉が踊る。
知らないうちに事件に巻き込まれてしまうが、設備や構造には人一倍詳しい…。
こんな設定に、『ホワイトアウト』(真保裕一著)を思い出してしまった。

ホワイトアウト

ホワイトアウト

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1995/09
  • メディア: 単行本


機内を縦横無尽に走り回り、乗客をもパニックに陥れる。
娘を探しだすためには、何をも恐れない。
とにかくジョディ・フォスターあっての『フライトプラン』だった。
彼女の演技力に唸ったのは、電車が来るのを待つ最初のシーン。
セリフひとつなく、表情だけで悲しみをたたえていた。
アクションではなく、静かな佇まいで。
映画の内と外で、ジョディ・フォスターに会えただけで、幸せな夜だった。
キャラメル味のポップコーンを友人と一緒に頬張ったことも、楽しい思い出になりそうだ。

       
            「FLIGHTPLAN」 パンフレットより





<お・ま・け>

六本木ヒルズには、面白いオブジェが飾られていた。

       
            思いっきりバンザイするテディベア?

日本におけるドイツ年 2005/2006 記念バディベアーとあった。
胸のいたずら書きが気になって、よくよく近づいて見ると
いたずら書きではなく、首相のサインだった。失礼しました。

       
            小泉純一郎の文字が左に

2005年4月4日の六本木ヒルズ・ドイツウィーク・オープニングセレモニーでのサイン。
右は、ドイツ連邦大統領のホルスト・ケーラー氏のサイン。

 

《今日の陸》
 
陸にもどうやら、新しい友達ができそうだ。
ご近所の黒柴くん、名前はまだ知らない。

       
             近づく 

       
             もう少し近づく

       
             すごく近づく


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