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消えるということ [記憶]

昨日、テレビで桐野夏生原作の『柔らかな頬』(BS-i)を放映していた。
桐野というと、『out』を連想してしまうが、直木賞を受賞したのは、『out』ではなく、この作品だった。
主人公の幼い長女が旅行先で突然、姿を消す。
ほんの三、四分の間に、まるで神隠しにあったように、いなくなってしまう。
事件か、事故か、それとも本人の意志によるものかは全く分からない。
いろいろと想像することは出来るが、どれが正解かは分からない。

柔らかな頬

柔らかな頬

  • 作者: 桐野 夏生
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1999/04
  • メディア: 単行本

ずいぶん前のことになるが、消えるということでは、似たような経験をしたことがある。
待ち合わせ場所に、相手が来なかったのだ。
それも、旅先でのこと。
Aさんと友人が関西地区に住んでいたので、私は旅行を兼ねて彼女ら二人と会う予定にしていた。
京都の○○デパートが、待ち合わせの場所。
友人は時間通りに来ていたから、二人でAさんの到着を待つことになった。
ところが、時間を過ぎても一向に現れない。
もしかして、待ち合わせの場所を間違えているのではないだろうか?
デパートで、店内アナウンスをお願いした。
反応はなし。
Aさんの自宅へ電話したが、コールのみ。
宿泊先のホテルにも、Aさんからのメッセージはなかった。
当時は、携帯もなかったので、これ以上はどうしようもなかった。

私たち三人は、かつて同じ会社に勤務していた。
私はまだ在職していたが、友人はすでに退職し、Aさんは退職したばかりだった。
退職直後のAさんに何があったのだろうか?
Aさんの常識的でスキのない仕事ぶりからは、考えられない対応だった。
会いたくなければ、適当な理由をつけて断れば良かったし、当日になって都合が悪くなったのなら、連絡するすべはいくらもあったのだから。

Aさんからは、その後全く連絡が途絶えた。
それまでしていた、年賀状のやりとりもなくなった。
手紙を出しても、返事は返ってこなかった。
消えた、というのがふさわしい別れ方だった。

最近になって、その後の彼女の消息が伝わってきた。
なんでも、上京してバリバリ仕事をしているそうな。
会おうと思えば会える近さに、彼女は居る。
でも、私にとって、彼女は消えたままだ。

 

       

          彼女もこの東京に居る





[ お・ま・け ]

今朝、陸の散歩から帰ったら、ガレージにあった車が消えていた。
記憶を辿ってみるまでもなく、ものの30分足らずのこと。
このところの強風で落葉がガレージにも散乱していたから、掃除するには車が邪魔だな、と思ったことまで覚えている。
すわ、盗難! と思ったが、主人から携帯に連絡が入って事なきを得た。

 




《小さい頃の陸》

       
        陸にも理由が分からない? (陸8ヶ月の頃)


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『You’ve Got A Friend』 [記憶]

キャロル・キングの『You’ve Got A Friend』を聴くと想い出す顔がある。
大学時代の友人、Mさんだ。
彼女からの誕生日プレゼントが、この曲を収録したアルバム『つづれおり』だった。

つづれおり

つづれおり

  • アーティスト: キャロル・キング
  • 出版社/メーカー: ソニーミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 1999/07/01
  • メディア: CD

率直で忌憚のない意見を述べる、Mさん。
初対面から、物おじせず、私に話しかけてきた。
シルクロード、ジャズ、SF小説、JPベルモンド、Pセラーズ、吉行淳之介、...
彼女の好きだったものは、私には少々不得手なもの。
それでも、彼女との話はいつも弾んだ。
就職し、結婚しても、友情は続いていた。
学生時代のように、頻繁に会うことはなかったが。

ある日、彼女から久しぶりに職場に電話があった。
パソコンに関する質問だった。
それほど詳しくない私にも分かる程度の質問。
そして、思い出したように、「実は、子供が生まれたの、男の子」と話した。
名前には、どうしても動物名を一字加えたかった、と言う、例えば、「虎」之介みたいに。
大真面目にそう言った。
実際、そうした名前がついていた。

それからしばらくたって、突然、職場に訪ねて来た。
「たまたま、近くに来たからね」
息子さんの写真を見せて、という私に
「持ち歩いてはいないの。そういう趣味、私にはないから。知ってるじゃない」
知っているといえば、そうかも知れない。
彼女には、気恥ずかしい気持ちがするのだろう、長年の付き合いだから、分かるような気がした。

今度また訪ねて来た時のために、動物の置物を買った。
その動物の名前と縁の深い、子へのささやかな誕生祝いとして。

       
         名前にちなんだ誕生祝い 渡す予定にしている

それ以来、彼女は訪ねて来なかった。
年賀状を出しても、返事はなく、そのうち転居先不明で戻ってきてしまった。
置物はまだ私の手元にある。
その子はもう高校に通う年齢になった。

彼女にもらった、『You’ve Got A Friend』(AMレコード)には訳詩がついている。

とても暗い夜さえも、私は明るくしてあげる/あなたが私の名前を呼ぶだけで/
私はどこに居ようとも/あなたに逢いに飛んで行く/
冬でも、春でも、夏でも、秋でもかまわない/あなたが呼んでさえくれたなら/
私はすぐに飛んで行く/あなたには居る、友達が

       
           当時プレゼントされた『つづれおり』

日本語にすると、彼女には気恥ずかしい歌詞だったのかも知れない。
でも、キャロル・キングの歌声からは、静かな真実が聴こえてくる。
彼女の消息をいま、本気で探している。

【kurumiさんの「死ぬまでにしたい10のこと」】がキッカケになりました。有難うございます。

《今日の陸》

       
             なにかを見つけた?


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ユーミン(Yuming)... [記憶]

先ごろ、松任谷由実が今年の紅白歌合戦に出演内定、とのニュースが駆け巡った。
松任谷由実(旧姓荒井)、通称ユーミン(Yuming)。
こんなことは、もう誰でも知っている。
もはや、揺るぎないほどのビッグ・ネームになった。
...3年前の8月25日、そんなユーミンが身近な存在になった。

荒井由実、という名前を初めて聞いたのは、ラジオの深夜番組だった。
彼女はまだ美大生で、デビュー前だったと思う。もちろん全くの無名。
その深夜番組のパーソナリティは、林美雄(はやし・よしお)さん。
TBS(東京放送)で、久米宏さんと同期のアナウンサーだった。
病気で降板した、久米さんの後を引き継いで、通算で10年間その番組を担当した。
林さんがどうして彼女を知ることになったのかは、もう覚えていない。
番組にも生で出演させて、何週間も繰り返し、彼女の曲をかけ続けた。
これは、林さん流の番組作り。
この方法で、石川セリ、山崎ハコなども紹介していた。
 
『ベルベット・イースター』 『ひこうき雲』 などは番組を通して知ることになった。
ユーミン、という呼び名も林さんの命名だったと記憶している。
林さんが番組を去る時に、彼女は『旅立つ秋』をプレゼントした。
彼女はもうスターになっていた。
...林さんは3年前の7月13日、58歳で亡くなった。

MISSLIM

MISSLIM

  • アーティスト: 荒井由実
  • 出版社/メーカー: 東芝EMI
  • 発売日: 2000/04/26
  • メディア: CD

  『旅立つ秋』を収録

【林美雄さん追悼記事】 「毎日新聞」2002年9月10日

8月25日は林さんの誕生日。
自ら、12月のクリスマスに対抗して、その日を「サマークリスマス」と呼んで楽しんでいた。
皮肉なことに、その日がお別れの会になった。
『サマークリスマス~林美雄フォーエバー~』 と銘打って。
広い会場は、立錐の余地がないほど、たくさんの人で溢れかえっていた。
私もその中のひとりだった。

大学時代に一度だけ、友人と一緒に彼に会っていた。
私たちが観て面白かったマイナーな映画を彼に紹介し、番組で取り上げてもらいたい、そんな主旨だったと思う。
ラジオ番組のリスナーに過ぎない私たちが、まるで彼の番組作りに参加しているような錯覚があった。そして、彼にはそうしたことを話せる気安さがあった。また、気軽に会ってもくれた。
良い時代だった、と思う。

お別れの会の終盤近く、ユーミンが突然現れた。
予告はなかったが、彼女が来るような気がしてならなかった。
清楚なワンピース姿のユーミンが、すぐそばに立った。
そばに居ても彼女と気づかない、そんな佇まいだった。
初めて見るユーミンは、思いのほか小さく細く可憐だった。
そして『旅立つ秋』を熱唱、彼女らしいストレートなトークを交えて。
この日、有名・無名を問わず、誰もが林さんを語っていたのに、彼がもうこの世にいないことが不思議でならなかった。

       
            当日頂いたCD  林さんの声と写真を収録

【IXY-nobさんのユーミンの記事】がキッカケになりました。有難うございました。

≪今日の陸≫

       
            いつもの公園で いつもの視線


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火事 [記憶]

近所でサイレンの音がする。
消防車のマイクががなる声が近いから、不安な気持ちを書き立てられる。
陸がサイレンを気にして、耳を傾けるように立ち止まった。
マイクの声は辺りに反響して、よく聞き取れない。
そういえば...ふと、あの日のことを思い出した。

    
      (駐車場)

昨年暮れ、すぐ裏の駐車場で車が燃える火事があった。
夜中の3時過ぎのことだった。
≪火事ですよ。 起きて下さ~い≫ 叫ぶ女の人の声で目が覚めた。
見れば、暗闇に駐車場の一点だけが異様に明るい。見る見る炎が高くなった。
主人が気づいて、119番する。
≪火事ですか? 救急車ですか?≫ ゆったりした声が応対した。
「火事です!! 車が燃えています」 急に回転速度を上げた応対に変わった。
≪怪我人はいますか? 車の中に人はいますか?≫ 
「...いないと思います」
こちらの住所氏名を告げて、到着を待つこと約10分。 10分がとても長く感じられた。

消防車のサイレンに、陸も裏のボギーちゃん(♂ビーグル)も激しく吠えた。
ボギーちゃんちの隣が駐車場だ。
消防車は到着してまず、燃えさかる現場を撮影し
誰かが号令して、車に人が乗っていないかを確認した。
この間、10~15分程度。 なかなか消火活動をしないことに、苛立つ思いだった。(消防署としての正しい判断に基づいているとは分かっていても)
それから消火。 
ほんの数秒で、火は消え、辺りにはもうもうと煙が充満した。
一部始終を二階で見ていた我が家にも、ゴムを焼いた匂いと煙が迷い込んだ。

その後、消防署からの連絡はなかった。通報したのは、ウチだけではなかったらしい。
噂では放火という話だった。
火の気はなかったし、覆面パトカーが2、3日、現場に留まっていたから、誰の目にもそう見えた。
燃えたのは、道路側に停めてあった、ドイツ製の高級車1台。
高級車であるがゆえに、他車への延焼は避けられた。

今では、焼け焦げた地面が残るだけだ。
しばらくは空いていた駐車場も、もう別な車が借りている。
ただひとつ、違うのは、ボギーちゃんだ。
あの時陸と一緒に吠えた、ボギーちゃんは、今年天寿を全うした。

    
       (ボギーちゃんのいた場所)

    
       (今朝の陸)
http://www008.upp.so-net.ne.jp/riku/riku01.htm


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