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『中野孝次展』から [イベント]

少し時間を巻き戻して。
大阪へ出かける前の7月1日、横浜の【県立神奈川近代文学館】を訪ねた。
ここで、開催中の「中野孝次展―今ここに生きる」へ。
それを知ったのは、中野氏の「ガン日記」が掲載された、【文藝春秋】7月号から。
この日はちょうど、担当編集者による記念講演会が予定されていた。

       

       

中野孝次氏(作家・評論家)というと、まずは『清貧の思想』が思い浮かぶ。
でも、私にとっては、愛犬との思い出を綴った、『ハラスのいた日々』や『犬のいる暮し』で身近に感じた人だった。

ハラスのいた日々

ハラスのいた日々

  • 作者: 中野 孝次
  • 出版社/メーカー: 文芸春秋
  • 発売日: 1990/04
  • メディア: 文庫

犬のいる暮し

犬のいる暮し

  • 作者: 中野 孝次
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1999/03
  • メディア: 単行本


30年以上前、初めて柴犬ハラスを家族に迎えて以来、マホ、ハンナ、ナナと彼の傍らには、いつも柴犬が居た。(ハンナとナナは健在)

中野氏は2年前の7月16日、79歳でこの世を去った。

       

講演で高橋一清氏(元文藝春秋編集者)は、微笑んだり、涙をにじませたりしながら、28年の付き合いを振り返った。
高橋氏によれば「中野氏は昭和と平成の世を真摯に生き、文学者として言行一致の生活を貫き、簡素な暮らしの中で、心の豊かさを求めた」(「ガン日記」前文より)
地道な暮らしを大事にしながら、品性豊かに生きるという考えが彼の底流にあったことをあらためて確認させられる。

卑近な例としては、良いものを大事に使うということにも繋がっていた。
茶系統の服を好んだこと、犬との散歩に被る帽子にもこだわりがあったこと、有名メーカーの万年筆を使い続けたことなどは、そんな彼の一面を知るようで面白い。
一方、なにやら可笑しいエピソードとして、『ハラスのいた日々』という書名に決まる前、中野氏が考えていたのは、「犬が犬であること」「犬の条件」などという堅苦しいものだったという。
高橋氏がそれらを即座に却下したことは言うまでもない。
なにしろ、これまでの中野氏には、愛犬の回想記など無縁の世界だったから。
微笑ましいことでいえば、生前のハラスの鳴き声が会場に響き渡ったことだろうか。
「ワン、ワン、ウーワンワン」。
中野氏がハラスに掛ける言葉も交じって。

講演の最後に披露したのは、中野氏の「死に際しての処置」について。(2004年9月臨時増刊号『文藝春秋』 和の心日本の美より引用)

一、医師により死が確認せられたる時は、近親者と別に指名せる編集者にのみにこれを知らせ、それ以外の者に知らせる勿れ

この文に始まる12項目の死生観が、亡くなる3年前の2001年5月に作成され、書斎のすぐ目に付くところに用意されていた。

わが志・わが思想・わが願いはすべて、わが著作の中にあり、予は喜びも悲しみもすべて文学に託して生きたり。予を偲ぶ者あらば、予の著作を見よ。
予に関りしすべての人に感謝す。 さらば。

最後にそう結んで。

講演会場を出ようとして、小柄な白髪の婦人を取り囲む輪に気がついた。
中野孝次氏の夫人、秀(ひで)さんの姿だった。
今でも元気に、ハンナやナナの散歩をしているのだろうか?
おそらく80歳近いと思われるが、生成りの綿パンと軽やかな足取りが印象に残った。

 

[そ・し・て]

講演終了後、久しぶりに横浜を歩いた。
時系列に

       

       

       

             

       

       

       

 


 

《昨日の陸》

       
              えっ、なぁに? (遠くから)

       
              なに、なに? (近くから)


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スザンナ

中野孝次展に行かれたのですね~。
近くならば私も行きたいところです。
中野孝次さんが亡くなったと聞いたとき、悲しいのと同時にハンナとナナの親子は奥様おひとりで大丈夫かしら? と心配しました。奥様がお元気そうだと知って安心しました。中野さんとは生前、夫関係の仕事で一度お会いし、食事もご一緒しました。とってもダンディーなお洒落な方でした。でもお酒が入ると少年のようにはしゃいでとても純粋な方なのですよね~ 
ハラスのいた日々 は涙なしでは読めない本でした。柴犬と暮らしているとうなずけることが多いだけに切なくなってしまいます。
陸くんは本当に幸せな顔をしていますね。
by スザンナ (2006-07-13 16:47) 

nico☆

犬を飼って得たものの大きさは、我が家にとってはかりしれないものです。
これを、飼っていない人に伝えようとして、どんなに事細かに言葉を並べても
伝わってないように思えます。
かけがえのない「家族」で、皆の心の支え。これからも、犬と共に生活していければいいなぁって思っています。中野孝次氏は知らなかったのですが、
この二つの作品は読んだら、号泣してしまいすね、きっと☆

フフ、「えっ、なぁに?」は可愛い仕草ですよね♪
心太も、キュって首をかしげて、よく笑わせてくれます☆
by nico☆ (2006-07-13 16:59) 

いちご☆

横浜まで 行かれたのですね。

私は 犬を飼っていないので 皆さんの気持ちが わからないかもしれません。

でも みなさんの可愛がられる気持ちは わかる気がします。

そして 懐かしい 横浜・・・疲れた時 元気のない時は 思い出します。
元気が 出ました。 ありがとう
by いちご☆ (2006-07-13 17:22) 

つま

行ってこられたのですね。私も、近くならばと・・・近いといえば近いような?
などと思っていたところでした。「ハラスのいた日々」を読んで、がらりとイメージが変わりましたが、そのときは、既に亡きあとで残念でした。

陸くん、何が気になったのかな?ビニール袋の音?じゃないですよね♪
新潟市の「前川國男」展に、行きたいなと思っています。
by つま (2006-07-13 17:41) 

もも

以前数年間だけですが横浜付近に住んでたことがあったので懐かしい景色の写真がいっぱいあって嬉しい~。結婚式が行われていたの?偶然?
陸クンの「なに、なに?」を私も近くで見てみたい♪そしたら私も負けじともっと陸クンに顔を近づけて「なんだろねー!」って言ってあげる(^○^)
by もも (2006-07-13 20:50) 

以前の詩人の方の死後のことにしても、今回の死後の処置にしても・・・。
なんて潔いのでしょうか。
見習いたい。そのためにはいまの自分に自身がなければ。
ということは、まだまだ修行の日々は続くのです・・・・。^^;

陸君、毎日暑いね~、ばててない?
by (2006-07-13 23:16) 

hellorin

こんばんわ
ホテルニューグランドに反応してしまいました
ロビーの時計や、エントランスの写真
懐かしくて・・・
思い出がたくさんつまったホテルです
オバケがでそうな旧館に泊まるのが結構すきでした
by hellorin (2006-07-13 23:31) 

柴犬陸

☆皆さま、今日は全国的にとても暑い一日でした。それでも梅雨はまだ明けていないようです。
そんな中、ご訪問そしてnice!有難うございます。

☆スザンナさん
中野さんと面識がおありだったんですね。
オシャレで、ナイーブなところは、高橋さんが今回お話された通りのようですね。
ハラスに向けた愛情は、飼い主として頷けることばかりでした。
本当に涙なしでは読めません。

☆rikoちゃん
ハラス、マホ、ハンナ、ナナに対する記述も、中野さんなりの愛情にあふれていて、納得の行くものでした。
ところで、心太ちゃんも首をかしげますか?
言葉がわかってるのかな、と思う瞬間です。

☆いちご☆さん
横浜に思い出がおありですね。
私も何度出かけても、いつも立ち寄る場所があって、ほっとする思いに満たされます。

☆つまさん
中野孝次展は、7月末日まで開催中です。
まだ少し時間があります、お時間がありましたら。。
ところで、前川國男さんは著名な建築家の方ですよね?
ちょっとチェックしてみます。
なお、陸はカミカミの途中で、私に呼ばれたので、こんな表情になりました。

☆ももちゃん
この日は土曜日だったので、このホテルでは結婚式ラッシュでした。
最近は、土日の結婚式が多いですね。
花嫁さんは、この場所でポーズを決めた後、披露宴会場にそのまま入っていかれました。
陸もももちゃんには、甘えそうです。

☆fumilinさん nice!有難うございます。

☆きすさん nice!有難うございます。

☆kurumiちゃん
死に際しての潔さは、茨木のり子さんにも共通するものですね。
私もこのように生きていければ、と願っていますが。
凡人には難しいです。
ところで、このところ暑い日が続きますね。
陸の散歩時間も早まっています。

☆りんさん
ホテルニューグランド、横浜へ行くと必ず立ち寄る場所のひとつです。
りんさんにも思い出がおありですね。
泊まったことがないので、部屋の様子はわかりませんが。
>オバケがでそうな旧館
一度ぜひ泊まってみたいです。
by 柴犬陸 (2006-07-14 00:03) 

チヨロギ

『清貧の思想』のイメージが強すぎて、ほかの本は読んでいませんでした。
ハラスが柴犬だということも知らなかったし・・・。
今度ぜひ、ご紹介の2冊を本屋で探してみようと思います。
いまちょうど内田百閒の『ノラや』を再読しているのですが、
滑稽なほど猫に愛情を注ぐ著者の姿に、涙が出そうになります。
by チヨロギ (2006-07-14 00:24) 

「ハラスのいた日々」は、先日テレビでも紹介されていましたね☆
外では読めそうに無いから、買ったら部屋でひとりで読みたいです。
そして、横浜は本当に懐かしいです! 一応、元横浜市民であります。
で、チヨロギさん、私も内田百閒が好きなんですが、『ノラや』は読んでないです。これも是非読みたいので、ネットで捜してみまーす♪
by (2006-07-14 01:00) 

megkiwi

ハラスのいた日々、ぜひ読んでみたいです。
陸ちゃんの小首をかしげてるのがキュート!
イヌを飼ってたとき、もし人間の言葉が話せたとしたら、
どんなことを話すのかな、とよく考えていたことを思い出しました(笑)
by megkiwi (2006-07-14 01:54) 

柴壱

中野孝次さんって、『清貧の思想』の人だったんですね、そう言えば、一世を風靡した…。
私には、やはり柴飼いさんのイメージが…。
『ハラスのいた日々』また読みたくなりました。
by 柴壱 (2006-07-14 02:07) 

匁

柴犬陸さん おはようございます。
横浜の【県立神奈川近代文学館】で中野孝次展へ行かれて講演会を聞かれたんですか!!すばらしいですね!どちらも名前だけは知っていましたが
実際読んだり行ったりしていません。陸さんのblog読んで興味が沸いて来ました。一度読んでみたいですね。
ところで、今日から大事な中日3連戦です。先日陸さん応援に行かれた京セラドームからです。一段と親近感と臨場感も新たに期待したいですね。
by (2006-07-14 07:53) 

柴犬陸

☆皆さま、今日(14日)も暑い暑い一日になりそうです。そんな中、ご訪問頂き、そしてnice!を有難うございます。

☆チヨロギさん
内田百閒の『ノラや』、面白そうですね。
早速、チェックしました。
昔、内田ひゃくぶんと呼んでました、お恥ずかしい。
中野さんの『ハラス。。。』と通じるものがありそうです。

☆saraさん
近頃、神奈川県の人口が大阪府を抜いたとニュースで報道されましたね。
横浜は年々大都市に変貌して行くようです。
でも、やっぱり変らないところもたくさんあって。。
このホテルもその一つでしょうか。

☆meg*さん
犬は、鳴き声ひとつでいろんな感情を使い分けていますよね。
こちらの言葉が分かっていると思うときもあります。
でも、やっぱり話が出来ると楽しいだろうなぁ。

☆柴壱さん
中野さんは本来は、『清貧。。』の人でしょうに、柴犬の飼い主にとっては、どうしても『ハラス。。』の印象が強く残ります。
講演会には、若者の姿より、年配者が多く見受けられました。(私たちもその中に入るのですが)
きっと、『清貧。。』の読者でしょうね。

☆tigerkitaさん
神奈川近代美術館も1984年開館といいますから、20年を過ぎていますが、とてもオシャレなつくりになっていました。
たどり着くまでの散歩道も良かったし。
横浜には、こんなところがまだまだありますね。
ところで、タイガース正念場です。
あのドームも今日から熱気にあふれるのですね。
by 柴犬陸 (2006-07-14 10:18) 

わやや

中野孝次氏、小生は殆んど知識が無い為皆さんの内容を読み勉強になりました。
昔日本が貧しかった時代。次男である彼は、進学したかったのだが、棟梁である父の反対にあい、旧制中学には進学出来ず。別の道から相当苦労し旧制高校に進学し、戦後大学で教鞭をとることになられたとか。
家族の期待に添えないや経済的な犠牲の上にしか自分の希望する道がないことが、その後の彼の考えに影を落としているのでせうね。
「ハラス・・」初めて知りました。
「私の半生において愛という感情をこれほどまでに無拘束に全面的に注いだ相手はいない」 これは読むしかありません。
陸ちゃん、読者モデル並の表情です。
by わやや (2006-07-14 13:43) 

goinkyonosora

ハラスの本は号泣でした;;
この文学館に友達が勤めているので、久しぶりに行ってみようかなと思いました^^;
by goinkyonosora (2006-07-14 14:02) 

tsubame_diary

こんにちは。
陸くんかわいいですね。♪
首かしげている姿がかわいいです。
うちは猫なのですが、とても大切な家族です。
「ハラスのいた日々」とても興味が沸きました。
今度探してみますね。(o^-^o) ウフッ
by tsubame_diary (2006-07-14 19:08) 

knacke

なになに?なになに?
ムフフ・・・。
by knacke (2006-07-15 08:01) 

ぽちくん

ハラスのいた日々、興味があったけど、このタイトルから
絶対泣いちゃうと思って、買えなかったの~。
お目目をクリッとさせて、首を傾げる陸くん、かわいい♪
by ぽちくん (2006-07-15 11:49) 

masa63

ご無沙汰しておりましたm(__)m
すみません、中野考次氏の作品は読んだ事がありません。
by masa63 (2006-07-15 14:48) 

柴犬陸

☆皆さま、毎度お暑うございます。さきほどは、激しいカミナリ雨でした。これで少しは涼しくなったような気がします。そんな中、ご訪問いただきそしてnice!有難うございます。

☆わややさん
中野さんの著作群からみれば、『ハラス。。』は異質ですが、これを読んだおかげで、彼の作品に対する興味がわきました。
最後の著作「セネカ 現代人への手紙」(岩波書店)も面白いです。

☆おぺさん
おぺさんも読まれたのですね。
映画化もされて、興味深い作品です。
会場では、彼の作品を数点、扱っていました。

☆tsubameちゃん
犬と猫の違いはあっても、家族であることには変りありませんよね。
猫といえば、漱石の『我輩は猫である』を思い出します。

☆plotさん nice!有難うございます。

☆きむたこちゃん
陸はおやつをみつけると、よくこんな表情になります。
この時、右目が少し濡れていて、ちょっと気になりましたが。

☆ぽちママさん
陸は名前を呼ぶと、時折り首をかしげます。
返事をしてるつもりなんでしょうね。

☆tanamasaさん
看病等でお疲れのところ、ご訪問有難うございます。
by 柴犬陸 (2006-07-15 15:01) 

plot

遅いコメントでごめんなさい。ウィーンの美術史博物館で「雪中の狩人」にようやく出会えた時、以前に読んだ「ブリューゲルへの旅」の清冽な印象が蘇ったのを記憶しています。
by plot (2006-07-15 20:24) 

kone

なに、なに? な陸ちゃんが可愛いです♪(●^_^●)
アコーディオンが聞きたいです〜♪(*^o^*)
by kone (2006-07-16 00:52) 

柴犬陸

☆plotさん nice!に続き、コメント有難うございます。
中野氏の『ブリューゲルへの旅』、ぜひ読みたい作品です。
ご紹介有難うございました。

☆koneさん nice!有難うございます。
ホテルでの夕食中、にこやかにアコーディオン演奏が始まりました。
楽しい時間でした。
by 柴犬陸 (2006-07-16 12:43) 

みゆき

私は本や映画で最後に犬が死んだりしたら悲しいから見れないんですよ。
『ハラスのいた日々』って読んでみたい気もするけど、
きっとタイトルから考えても最後は悲しくなりそうです。
首を傾げてる陸くん、かわいいですね。
by みゆき (2006-07-16 21:16) 

柴犬陸

☆オサルノカゴヤさん nice!有難うございます。

☆みゆきさん nice!有難うございます。
ハラスが亡くなった時の中野さんの落ち込みがひどくて、それをみかねた編集者(高橋さん)のすすめで、『ハラスのいた日々』を書き上げたそうです。
みゆきさんの気持ちはよくわかります。
by 柴犬陸 (2006-07-17 00:25) 

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